リンの谷のローワンシリーズ
夏休みに住んでいる区の社会教育館にて、ファンタジーに関する講座を受講しました。3日間、小学生から大人までを対象とした講座でしたが、受講していた小学生の聴講態度の良さと読書量の多さに講師の方々も受講していた私達大人も驚かされました。最年少では、小学校1年生の女の子達も受講していましたが、2時間たっぷりのお話を静かに聴きながら、時おりメモを取ったりしていました。
最終日は、翻訳者で児童文学者のさくまゆみこ先生のリンの谷のローワンを主としたファンタジー全般に関するお話。その時に知った「リンの谷のローワンシリーズ」にすっかり魅せられて、夏から読み続けています。
児童文学として親しまれてきた「リンの谷のローワンシリーズ」ですが、現実世界に対する深い洞察に基づいて構築された物語は、大人の鑑賞にも十分値するものだと思います。現在出版されている5冊の本に関する書評をbk1に投稿しました。
ある時、リンの谷を流れていた川の水が止まり、川の水しか飲まない家畜のバクシャーは見る見る弱ってきた。リンの谷で「魔女」と呼ばれている老婆シバから渡された不思議な地図を頼りに、男女7人の若者たちが水源のある魔の山へ向かった。
地図は、幼いローワンが持った時にしか目に見えない。ローワン少年は、バクシャーの世話係をしている。羊飼いに似た仕事であろう。ローワンは臆病だが、バクシャーと言葉を交わすことのできる優しい心の持ち主だ。怖がりながらもローワンは、バクシャーを救うために、山へと向かった。
竜、洞窟、蜘蛛、底なし沼、魔法がかけられた地図…ファンタジーの世界であることを冷めた目で見ている自分と、また、ファンタジーの世界であることを知りながらも、魔の山の頂に向かおうとするローワンを本気で応援している自分がいた。
ローワンと共に歩むリンの谷の果樹園係のストロング・ジョンは背が高い、りっぱな男だ。そのストロング・ジョンがローワンに言った言葉がとても印象に残っている。「怖がりながら、きみは山を登った。怖がりながら、きみは危険に立ちむかった。そして、怖がりながら先へと進むんだ。それが本当の勇気なんだよ、ローワン。怖がらないのは、おろか者だけさ。…」
私は40年と少し生きて、体と心の衰えを感じ始めている。そんな私にとって、ローワンの歩みは、これからの人生の指針のようにも思える。もっと若くて体も心も健康な時に、この本に出会っていたら気づかなかったであろう燻し銀のような言葉である。 幼い子どもたちから、老若男女、それぞれの味わい方のある奥行きをもったファンタジーではないでしょうか?
リンの谷の春は黄色いムヨウギクの花盛り、<旅の人>の一行が二年続けて訪れた。<旅の人>は、遊びや物語や踊りや音楽と一緒にやってくる。そして、商い用の素敵な物も持ってきてくれる。
子ども達にとっては、お祭りのような日々である。果樹園係のジョンにとっても、<旅の人>が連れてくるミツバチの働きで、秋の果物の収穫がどっさりともたらされる。
しかし、リンの村の大人達の中には、<旅の人>を「無用者」呼ばわりする人もいる。菜園係のブリーとハンナにとっては、菜園の野菜をこっそり盗む一行の訪れは好ましくない。特に、今年の春は、アランが山から持ち帰ったヤマイチゴの苗木が育っているので、それを盗まれるのではないかと不安でならなかった。成長がいちじるしく早く、花と実を同時につける珍しい果樹だ。リンの村の特産物にしようと菜園係のブリーは考えていた。
ローワンが世話をしているバクシャー達が妙に落ち着かない。
ローワンにとっても、ムヨウギクの花粉症の季節である。リンの谷で「魔女」と呼ばれている老婆シバから薬をもらっている。
ひそかな敵がやってきた。シバの予言めいた謎だらけの言葉で始まるリンの谷のローワンシリーズ第二作。
一行が訪れた夜、リンの村の人々は奇妙な眠りに倒れた。そして<旅の人>は、忽然と姿を消した。ヤマイチゴの苗の秘密を守るために彼らが村に入ることを拒んだ、彼らの報復だろうか。
ひそかな敵は、<旅の人>だろうか、それとも、ゼバックだろうか。
前作で魔の山に登り、怖がりながら先へ進むことが本当の勇気であることを知ったローワンは、奇妙な眠りに陥らなかったアランとともに、ひそかな敵のもとへと向かう。
ジールというゼバックの捨て子を敵と思い、こぶしをたたきつけたローワン、ひたすらに耐えるジール。<旅の人>の語り部オグデンの言葉によって、疑いを晴らしたローワンは、ジールとともに伝説の黄金の谷へと向かう。そこで「ひそかな敵」の正体を知る。
シバの言葉の謎を解くように展開する第二作。
<旅の人>の語り部オグデンの「これは、勇気と恐怖、伝説と真実、謎と答え、そして疑いと友情、さらに失った宝と救った宝の物語であった。これはまた、外からやってきたのではなく、内から生まれてきた恐ろしい敵の物語であった」という言葉に第二作は要約されるであろう。
第二作で黄金の谷の時が終わった。巻を重ねるごとに少しずつ成長してゆくローワンの姿が楽しみである。また、リンの谷の人々をめぐる世界の成り立ちがあかされてゆくのが面白い。
「外からやってきたのではなく、内から生まれてきた恐ろしい敵の物語」というオグデンの洞察に、今、自分が生きている世界を思った。環境問題しかり、民族紛争、宗教戦争、テロと報復、世界で起きている様々な不穏な事象は、私たちの心の中から生まれてきた恐ろしい敵のなせる業ではないだろうか。
役立たずと思ってぬかれていた野生の愛らしい花「ムヨウギク」
誇りと富をもたらすものとしてリンの村に歓迎された「ヤマイチゴ」
私たちの世界から無用の物が排除され、目に見えて有用な物だけが残されてゆくことへの警告とも思える。無用の用という大切なことを忘れてはならないのかもしれない。私たちの周りのムヨウギクは、そして、ヤマイチゴは何であろうか。そんな視点を持って、現実を見つめてみたいと思う。
子どもの頃に出会っていたら、シバの言葉の謎解きをするように楽しむだけで読み終えたであろう一冊の本に、深い洞察の言葉を見出した喜びを味わっている。わかりやすいストーリー展開の中に、前作同様、現実世界への深い洞察が込められている。小さな子どもから、大人まで十分に鑑賞に堪えうるファンタジーではないだろうか。
「水晶にかげりあり。選任役を招請する。」
マリスの民の使者がもたらす謎の言葉から始まるリンの谷のローワンシリーズ第三作。
ローワンは知らされていなかったが、「選任役」と呼ばれているのは母親のジラーである。「だって、ローワン、あなたは…いろいろなことを不安に思うたちだから」とジラーは、家系に伝わる役割をローワンに秘密にして来た。もし、自分がもっと強くて勇敢だったら…とローワンの心に負い目がかぶさる。リンの村の家畜バクシャー係のローワンの平穏な日々に再び試練が訪れた。
マリスの民は海岸を警備している。ゼバックからリンの谷の人々を守るために大きな役割を果たしている民だ。その民の<水晶の司>が弱り果てている。水晶は偉大な力を持つ宝物であり、その神秘的な力を守り継いで来たのが<水晶の司>である。
マリスの水晶が光を失い、司の死が近い。ゼバックの攻撃への大きな危機に瀕している。新たな<水晶の司>を選ぶために、選任役を担う家系のジラーとその長子のローワンに招請が来たのだ。
水の民マリスの3つの部族アンブレー族、フィスク族、パンデリス族の代表の中から<水晶の司>を選ぶために、選任役のジラーとローワンは、果樹園係りのジョンとともにマリスへと旅立つ。
<水晶の司>の選任役は、ねたみ深い候補者や氏族のスパイたちによって、何人もが殺されたというほど、危険な役割である。毒殺されたこともある。網に入れられて海に投げ込まれたこともあるという。
危険を承知で旅立った3人であったが、マリスの村の水晶の洞窟の中で、ジラーが毒に侵され、瀕死の状態に陥ってしまった。<水晶の司>によると、その毒は、かつて、ミリル族が作った<死の眠り>というもの、少しずつ死に近づいていると言う。
母親の死を前に、ローワンは司の選出を続けるように命令される。しかし、ローワンは、それを拒み、「ぼくは、ぼくなりのやり方で強くなるんです。」と司の顔をまっすぐに見て言った。
司の選出のために残された限られた時間の中で、手に入れることがほとんど不可能といわれている「オリンの毒消し」を求めて、ローワンは、三人の候補者とともに危険な島へと向かう。三人の候補者は、アンブレー族のアーシャ、フィスク族のシーボン、パンデリス族のドスだ。アーシャは、母親のジラーを思いおこさせる。シーボンは、元気で自信に満ち、たくましい。その姿はジョンを思いおこさせる。ドスは物静かで、夢みがちで、ほかの二人より自信がなさそうだ。ローワン自身に似ている。
ローワンは、ガラス瓶とオリンが残した謎めいた言葉を頼りに毒消しを探すことに…。
果たして、ローワンは母親のジラーを救うことができるのだろうか。また、ローワンが選んだ次なる<水晶の司>とは…。
冒頭の使者の言葉から、結末に向けて、物語はミステリアスに進んでゆく。リンの谷のローワンのシリーズは、それぞれ完結しており、どのシリーズから読んでも面白い。試練のたびに、自分なりのやり方で強くなってゆくローワンの成長が楽しみである。そして、どのシリーズにも、深い洞察が込められている。
第三作では、「注意深さと賢さは、司に備わっていなければならない。司は、古い問題ばかりでなく新たな問題も解決することができなければならない。」という司となるべき資質を述べた<水晶の司>の言葉が心に残った。
いろいろな問題が山積している現在、それぞれの国家の指導者に求めたい資質である。ファンタジーの世界でありながら、現実の世界と深くつながっているリンの谷のローワンシリーズは、大人にとっても、子どもにとっても味わい深い良書ではないだろうか。
リンの谷のローワンシリーズの第4巻。こともあろうにローワンの母ジラーと果樹園係りのストロング・ジョンの結婚式の最中に、巨大な怪鳥が現れて妹のアナドがさらわれてしまう。不吉な予兆を感じていたローワンは、母親の婚礼の祝いのことを思い、村人に告げなかったことを悔やみ、たった一人でゼバッグの地へ妹を救いに出かけようとする。
そこへローワンの仲間として集う3人。父親が「旅の人」だったリンの谷のパン職人のアラン、ゼバックの子どもであったが「旅の人」の中で育てられたジール、そして、結婚の祝いにはるばるやって来た「マリス」の一族のパーレンである。
リンの村の「賢い女」とも「魔女」とも呼ばれるシバを訪ねた4人は、シバから半端もの呼ばわりされる。3人を外で待たせ、ローワンだけに向かうシバであった。シバが燃え上がる炎の中で唱えた不思議な詞をローワンは焼けるような痛みの中で聞かされた。そして、小さな包みを託された。
半端ものと呼ばれ、自らもそのように感じている4人は、宿敵ゼバックの地へ向かう。ゼバックの国の荒れ地、うごめく大地、鉄の檻…ゼバックの地の恐ろしさが具体的に描かれ、ローワンを巡る世界がさらなる広がりを見せる。初めて訪れるゼバックの地での予測のつかない危険に加えて、シバの唱えた詞の謎解きが困難である。
シバから託された小さな包みの中の小枝、ローワンの胸にさげられた金のメダルを通して、4人の冒険は進んでゆく。4人が、それぞれの弱さをひしひしと感じながらも、それぞれに乗り越えてゆく。ゼバックの国の「囲い地」にて、思いがけない出会いが待ち受けていた。そして、300年もの間、封印されていたリンの谷の村人にまつわる物語が明らかにされる。
強者によって支配されている現在、世界の歴史がどのような方向に向かっているのか霧の中にいるような不安感を抱いて生きているわたし達にとって、物語の中で、半端もの呼ばわりされているローワン達の乗り越えた道のりは、何かを暗示してくれているように思える。300年もの時を経て、明かされる一族の歴史…本当の平和とは一足飛びに得られるものではない、しかし、決してあきらめてはならないものなのかもしれない。
どの巻から読んでも、それなりに完結した物語であるが、4巻目の『ローワンとゼバックの黒い影』に最もはらはらさせられたように思う。子どもから大人まで味わうことができるリンの谷のローワンシリーズ、時と空間が広がる『ローワンとゼバックの黒い影』は、シリーズに無くてはならない一巻ではないだろうか。
リンの村に異常な冬が訪れた。谷は深い雪におおわれ、冬がいつまでも終わらない。食料も次第に底をついてきた。不気味な霧とともに「禁じられた山」からやってきた白い魔物たち。
村人たちは、生きのびるために、リンの村を離れることになった。
リンの村を救うために立ち上がったローワンと3人の仲間たち。ゼバックの国から妹のアナドを救い出した時に、リンの村に連れ帰った兄妹ノリスとシャーラン、ゼバック生まれの娘で「旅の人」として育てられたジールである。
4人は、凍れる冬の謎を解くために、「禁じられた山」に向かう。
シバがローワンに唱えた詞と託した金のメダル。謎めいた詞に翻弄される4人であったが、ジールが「たぶん生きてくってことそのものが、謎だからじゃないのかな。人生の道をたどりながら、みんな自分でその謎を解いていかなくちゃいけないのよ」と言う。物語の中の言葉に実人生の本質を垣間見るような思いで読み進んだ。
シバの詞が4人の心に重たくのしかかっていたが、リンの村の家畜バクシャーの群れが進むべき道を教えてくれる。ゼバックの国の囲いの地で、ノリスやシャーランと出会い、リンの村の知られざる歴史を知ったローワンであったが、「禁じられた山」で再び、祖先の歴史を知らされることに…。ちょっとした間違いのせいで何世紀もがむだに失われていたのだ。
リンの村の祖先の新たな歴史とは…。また、リンの村の異常な冬はどのように終わりをむかえるのであろうか。
シバの詞の謎解きが困難な『ローワンと白い魔物』は、洞察に満ちたシバの言葉が、物語に深い奥行きを与えている。現実の世界も、ちょっとした間違いのせいで、多くの無名の民の犠牲者を出し続けているように思えてならない。「獣の賢さは、人間の思いをしのぐなり」というシバの言葉が心に響く。児童文学として親しまれているリンの谷のローワンシリーズであるが、現実の世界に対する深い洞察により構築された作品として、大人の鑑賞にも十分堪えうる作品であるように感じている。次の作品の新たな冒険と洞察が楽しみである。
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» ≪リンの谷のローワン≫シリーズ [しいの日記]
忘れないうちに、児童文学の本を一つ紹介。先日のハリポタの記事でちょっと触れたのですが、私が大好きな児童文学のシリーズの一つに「ローワン」シリーズがあります。ハリポタが日本上陸して以来、出版業界ではちょっとしたファンタジーブームが今も続いています。海外でも新作の発掘に... [続きを読む]
受信: 2005/07/19 14:27

コメント
myuさん、コメントをありがとうございます。お子さんも、HPを立ち上げていらっしゃるのですね。いろいろと意欲的にチャレンジなさるお子さん・・・将来が楽しみでしょう。きっと感受性豊かに育っていらっしゃるのだと思います。(そのように願う親は、結構子育てに労力を費やす方が多いのですよね。(笑))
わが家の読み聞かせは、もう自然消滅してしまいましたが、私と子ども達の大切な大切な思い出です。
これから「思い出の絵本」を随時書き込んでゆきたいと思っています。これからもどうぞよろしくお願い致します。
投稿 まざあぐうす | 2004/12/15 06:29
まざあぐうすさんこんばんは
可愛い背景ですね。
実は、私の子どもも最近ブログをはじめましたが、同じ背景です。
「ふりふりわんこ」の各所をマウスで触るといろんな表情が楽しめますね。
素敵な絵本紹介ですね。子育て中のお母様、そして大人の方にも喜ばれますね。
子ども達が幼いころは、親子で感動した絵本にたくさん出会いました。
勉強も大事ですけどそれ以上に感受性が豊かに育って欲しいです。
投稿 myu- | 2004/12/15 00:01