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2008/02/25

河合隼雄著『ケルト巡り』(日本放送出版協会)

 継続的に読んでいるローズマリー・サトクリフの作品を通して、ケルトの文化に興味を抱いています。ユング心理学の第一人者である河合隼雄さんの著作集(全14巻)も再読しながら、ケルトとユング心理学と現代を生きる私たちを結ぶ一冊を見出しました。『ケルト巡り』です。
 サトクリフの作品の理解へと向かう本ではありませんでしたが、ケルトの文化が、これからの日本の癒しへの大きなヒントを与えてくれるのではないかという示唆に心惹かれました。

 心理療法家である著者が、日本とケルトとの欧米文化にはない共通点に着目して、イギリスやアイルランドのケルトを巡り、ケルトの「おはなし」や音楽、ドルイドと呼ばれる自然信仰などを通して体験したことを生身の言葉で語った一冊です。 

 著者は、心理療法家として、親子、夫婦、職場の人間関係、ノイローゼの症状への解決の道を見出しながら、現代という時代をいかに生きるのかという根源的な問いと直面してきました。そして、その解決を求めてケルトの文化へと向かいました。著者の誠実な問いと大胆な着眼点を好ましく思います。

 

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河合隼雄著『大人の友情』(朝日新聞社)

 「ほんとうの友人とは?」という問いに対して、著者は「夜中の十二時に、自動車のトランクに死体をいれて持ってきて、どうしようかと言ったとき、黙って話に乗ってくれる人だ」というユング派の分析家アドルフ・グッゲンビュールの言葉を引用している。
 冒頭から「友情」を語ることが一筋縄でいかないことを暗示しつつ、「友だちが欲しい」・「友情を支えるもの」・「男女間に友情は成立するか」・「友人の出世を喜べるか」・「友人の死」・「「つきあい」は難しい」・「碁がたき・ポンユー」・「裏切」・「友情と同性愛」・「茶呑み友だち」・「友情と贈りもの」・「境界を超える友情」の12のテーマに基づいて展開される本格的な友情論。軽快な語り口にぐいぐい引き込まれ、友情の何たるかの奥深さを知らされる。

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2008/02/23

思い出の絵本 No.7 お勧めです! 子どもと読む義経記(赤羽末吉・絵/今西祐行・文)『源平絵巻物語』全十巻(偕成社)

 源平絵巻物語全10巻は、今西祐行さんの語りと日本画家である赤羽末吉さんの絵が見事に調和した現代のすばらしい絵巻物語です。

 赤羽末吉さんの絵本のすばらしさを教えてくれたのは、二人の子ども達でした。たまたま保育園の図書コーナーから娘が借りてきた『ほうまんの池のカッパ』(銀河社)という絵本を当時5歳の娘と生後6ヶ月の息子に読み聞かせると、滅多に笑わない赤ん坊だった息子が声を立てて笑い、知的な障害を抱えている娘も一緒に笑いながら最後まで聞いてくれました。以来、何度繰り返して読んだことでしょう。思い出の絵本の貴重な一冊です。

 それから数年後、息子が年中の時に借りてきた『ももたろう』(福音館書店)。「ママ、ほうまんの池のカッパの人の絵だよ。読んで」と言います。息子は、赤羽末吉さんの絵を見つけては、図書館から借りてきていました。

 源平絵巻物語全10巻(偕成社)も幼い息子が見つけてくれた絵本です。源義経を中心に語られ、描かれた現代のすばらしい絵巻物語です。

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2008/02/22

(江國香織・文/荒井良二・絵)『いつか、ずっと昔』(アートン)

 結婚を控えたれいこと浩一が夜桜見物に来ました。
 見渡すかぎりの桜、濃紺の闇に、つめたいほど白い花がしんとしずまりかえってさいています。風が吹くたびに花びらがこぼれます。

 浩一の腕にもたれて、うっとりと夜桜をながめるれいこに、次々と現れる過去の恋人たち。木の根のかげから、しゅる、と音がして現れたもの。木々の間をうろうろと動き回っていた白くて、まるく太ったもの。豚舎の入り口に、うしろから月光をあびて、ちょこんと立っていたもの。
 桜の幹から養豚場、海を経て、再び花びらの中に立つ浩一のもとに戻ってきたれいこ。れいこは、浩一の腕にしがみつきながら、「さよなら」と昔の恋人たちに、そっと告げます。さて、れいこの恋人達とは・・・。

 『つめたいよるに』収録の「いつか、ずっと昔」を底本として描き下ろされた絵本です。荒井良二さんのユニークなイラストが江國香織さんの物語の世界を幻想的に彩っています。夜桜の花のアーチがまさに異界に開かれた門のようです。

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2008/02/20

荒井良二さんの絵本の魅力ー時間の流れ

 ふと、子どもの頃に戻ってみたい、そして、ほっとした気分を味わってみたいと思うとき、開く絵本・・・そんな絵本作家の一人が荒井良二さんです。

 荒井良二さんは、日本人で初のリンドグレーン賞を受賞しています。下記は、2005年に書いてブログ「ほのぼの文庫」にアップした文章ですが、今日、偶然、荒井良二さんの絵本が好きという方にお会いして、うれしかったので再更新することにしました。

 荒井さんの絵は、「子どもより子どもっぽい絵」かもしれません。荒井さんが絵本に書いている文字も「子どもより子どもっぽい文字」かもしれません。子どもより子どもっぽい絵だけど、子どもより子どもっぽい文字だけど、魅力的な絵です。そして、何よりもほっとする絵と文字です。(「子どもより子どもっぽい絵」という言葉は、荒井良二さんの『ぼくのキュートナ』の一文「子どもよりもっと子どもっぽい、絵を描く天才」より着想を得ました。)

 一ヶ月半ほど読み続けて、絵本の魅力とほっとする要因は、絵本の中を流れる独特の時間にあるのではないかと感じるようになりました。

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荒井良二作『バスにのって』(偕成社)

トントンパットントンパットン 荒井良二さんの刻むゆったりとした時間

 バスに乗って遠くへいくために、一人でバスを待っている人がいます。
 照りつける太陽と小さなバス停
 広い空とそよっと吹く風
 ラジオから聞こえてくる音楽
 トントンパットン
 トンパットン
 トラックが過ぎ、馬に乗った人が過ぎ、自転車に乗った人が過ぎ、いろんな人が通り過ぎて、夜になりました。バスを待っている人も眠り、ラジオも眠ります。
 朝になりました。トントンパットン トンパットンとラジオから、再び音楽が流れ始めます。照りつける太陽と小さなバス停、広い空とそよっと吹く風、そして、ラジオから聞こえてくる音楽、それだけしかない世界です。
 バスは来るのでしょうか。バスに乗って遠くへ行けるのでしょうか。そんなことすら忘れてしまうほど、のんびりとした時間が流れています。
 音楽のトントンパットントンパットンのリズムに乗って、ゆったりとした時間が流れてゆきます。照りつける太陽と小さなバス停、広い空とそよっと吹く風、そして、ラジオから聞こえてくる音楽、たったそれだけの世界ですが、なぜかそんな世界が恋しくなりました。

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(荒井良二)『ぼくのキュートナ』(講談社)

キュートナって、誰? いろいろな楽しみ方ができる一冊の絵本

 「はいけい。ぼくのキュートナ」で始まるキュートナへの手紙とキュートナへの言葉が対をなす15通の手紙集。

 キュートナって、動かない時計をしている。メガネをするとキリッとしてみえる。あるいてて、急に立ち止まる。よわよわしいけど、ちからもち。へんなぼうしがにあう。さむがりなのに、つめたいものばかり飲む。子どもよりもっと子どもっぽい、絵を描く天才。あれしたい、これしたいって、いつもいう・・・。

 キュートナって、誰?キュートナって、具体的な人物像とか浮かばないけれど、「ぼく」にとって特別な存在だってことは分かる。「ぼく」が心底愛しているってことも分かる。
 

 もしかしたら、キュートナって、荒井良二さん、あなたのことかしら?
「きみが描く絵ってスゴイね。子どもよりもっと子どもっぽい。天才だよ!」という言葉が胸にキュンと来る。自分の中にいるもう一人の自分にこんな手紙が書けたらいいな。自分のことをこんなに愛せたらいいな。
 子どもよりもっと子どもっぽいけれど、スゴイ絵と愛に満ちたユニークな言葉、最初は、手紙だけを読んで、次に言葉だけを読んで、その次に手紙と言葉を比べながら読む。そして、絵だけを見る。いろんな楽しみ方ができる一冊。

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2008/02/13

台湾の作家ジミーさんの作品

 気持ちが沈んだ時、台湾在住の作家ジミーさんの絵本を読むと、静かに癒されます。そして、ぽっと心が明るくなります。

 ジミーさんは、99年に発表した『君のいる場所』(小学館)が大ベストセラーとなり、人気はアジアにとどまらず、欧米へと広まっています。そして、ワーナー・ブラザーズにより金城武主演で映画化されました。その後、次々と心に沁みる作品を描き続けています。

 1988年より、白血病がきっかけとなって絵本の創作活動に入ったジミーさん。絵の美しさもさることながら、絵に添えられた言葉が人生に対する深い洞察に満ちています。

『幸せの翼』(小学館)
幸せって「何もかも奪われてもわたしらしく生きること」でしょうか

才能、社長という名誉と地位、お金
美しい妻、かわいい子ども達
「約束された幸せ」とでも言うのでしょうか
彼は「誰もが夢みる世界」の全てを持っていました
 
その彼の背中に突然生えてきた翼
彼の意のままにならない翼
会社を失い、妻子を失い、両親を失い
彼から何もかも奪った翼
彼を死ぬほど辛い目に遭わせた翼
彼を雷鳴がとどろく黒い雲の中に連れ去った翼
その翼を「幸せの翼」と呼んでいいのでしょうか

「誰もが夢みる世界」から空に飛び立ち
鳥の世界の住人となった彼
人々の記憶から消えてしまった彼
遠く深い山の中で迷った子どもを助けたとも
遠い地の果て、吹雪の中で遭難しかけた探検家を助けたとも

幸せって何だろう
美しい絵の中を飛ぶ[人の姿をした鳥]を見つめながら考えました

点頭てんかんという重い病を抱えながら生きている娘
てんかんの発作に耐え、演劇と水泳を頑張っている娘
あるがまま日々を過ごし、笑っている娘
才能も地位も名誉もないけれど夢と希望を持っている娘
 
幸せって「何もかも奪われてもわたしらしく生きること」なのでしょうか
目の前にいる娘の姿を見て思いました
 
「いつまでも 消えない希望
あるがままを 受け入れる勇気
信じよう 奇跡はきっとあるのだと
黄昏の空にも 美しい虹は浮かぶのだから」

最後のページに記された4行の言葉が心に深く残りました
空を飛ぶ[人の姿をした鳥]を見かけたら
「がんばって。あなたらしく」と
あなたは声をかけることができますか

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ジミー著『ほほえむ魚』(早川書房)

「犬のように忠実で、猫みたいに心がかよい、恋人のように愛しい魚」とぼくの不思議な物語~人間の孤独、運命、そして、本当の人間のやさしさとは何かを考えさせられます

 ぼくは、ぼくだけにほほえむ魚に出会った。魚は、いつもぼくを待っていた。じっと見つめるぼくだけのまなざしを。ぼくは、ぼくだけにほほえむ魚を小さな水槽に入れて、家につれ帰った。「犬のように忠実で、猫みたいに心がかよい、恋人のように愛しい魚」とぼくの生活が始まった。

 眠ったはずの魚は、水槽ごと緑色に輝きながら、空中を漂ってゆく。ぼくは、あわてて追いかける。魚のあとを追って、真夜中の通りをさまようぼく、幼い頃踊ったダンスのステップを思い出したぼく、木立の中でかくれんぼをするぼく、朝露でズボンが濡れるまで草むらを歩くぼく、緑色に輝く魚といっしょに大海原を仲良く泳ぐぼく…。大海原を自由自在に泳ぎ回って、ぼくは、はっと気がついた。「ぼくも大きな水槽に囚われたちいさな魚だったんだ」と。
 めざめたぼくとほほえむ魚のその後は…。

 「犬のように忠実で、猫みたいに心がかよい、恋人のように愛しい魚」とぼくの不思議な物語です。人間の孤独と運命を幻想的で美しい絵とユーモラスな語りで綴った物語、自分の孤独と運命から目をそらさずに向き合った作者だからこそ綴れる物語ではないでしょうか。人間の孤独、運命、そして、本当の人間のやさしさとは何かを考えさせられます

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ジミー『君をみつめてる』(日本文芸社)

台湾の絵本作家ジミー・リャオが贈る癒しと勇気のメッセージ集

 台湾の絵本作家ジミー・リャオの60篇の詞と絵が収められたメッセージ集。猫や小鳥、うさぎや熊など動物と人間が関わる姿が、それぞれの言葉と対をなすように描かれていて、60篇の寓話を読むように愉しむことができます。

 

 最低の絶望のなかにいるあなた、夢と現実のあいだをさまよっているあなた、そして、不条理を抱えているあなた、最初の一歩をどう踏みだせばいいのかわからないあなた、そんなあなたの心に沁みるメッセージ。
 希望の井戸
 リンゴの木の下で
 相対論
 偏屈・・・など

 台湾の絵本作家ジミー・リャオが贈る癒しと勇気のメッセージ集。ジミーの言葉は、美しく清らかな一輪の花をあなたの心に届けてくれるでしょう。そして、あなたにしかできないこと、あなただけの幸せがあることをさり気なく教えてくれるでしょう。

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2008/02/09

『蟹塚縁起』(梨木香歩・文/木内達朗・絵)(理論社)

(梨木香歩・文・木内達朗・絵)『蟹塚縁起』(理論社)
梨木香歩さんの語りと木内達郎さんの絵の絶妙なコンビネーションによる蟹塚の由来ー二世代にわたる恨みが昇華されてゆく哀しく美しい物語です。

 むかしむかし、薮内七右衛門という武将がいました。何千人もの兵を率いて戦っていた七右衛門は、家来たちをそれはそれは大事に思っていました。 七右衛門は、大事な家臣が人質にとられたと知った時、敵の罠とは知りながら、駆けつけたのです。
 他の家来たちも次々に打たれ、兵たちの屍が累々としている中、続けざまに敵の矢を受け、愛馬松波丸もろとも、同田貫正国という九尺五寸の刀を握り締めたまま、どうっとばかりに地面に崩れ落ちました。七右衛門は、「ああこの土と、もっと親しんで、生きたかった…」との思いを遺しながら、息絶えてゆきました。無念の戦死でした。

 七右衛門の思いは、同じ土地にとうきちという農民の子として生まれ変わりました。前世を語る旅人・六部…とうきちに前世の記憶が鮮明に甦る出来事が起こります。
 

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梨木香歩さんの絵本『ペンキや』・『マジョモリ』・『ワニ ジャングルの憂鬱 草原の無関心』(理論社)

(梨木香歩・文/出久根育・絵)『ペンキや』(理論社)
二世代にわたってペンキ屋という一生の仕事をやりとげた父親と息子、そして、その仕事を見守った母親とその妻を巡るファンタジー 人間の愛と天職をテーマとした味わい深い絵本です
『ペンキや』は、こちら・bk1へ。

 しんやは、母親からペンキ屋であった父を「発見」した時の話を聞くのが好きでした。そして、幼い頃からペンキが大好きでした。
 成長したしんやは父親と同じペンキ屋を目指して修業中。仕事となると見た目よりもずっとむずかしいものです。才能がないのではないかと悩むしんやは、母親から聞かされた父の墓を訪ねてフランスへと旅立ちます。お墓には「ふせいしゅつのペンキや ここにねむる」と書いてあることを聞かされていました。

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2008/02/08

デイビッド・スモール作/藤本朝巳訳『まぁ、なんてこと!』(平凡社)

 もし、朝、あなたが目を覚まして、頭の上に鹿のツノがはえていたら、どうしますか?そんなこと、考えられませんよね。そんなことを想像して一冊の絵本に仕上げたのは、コルデコット賞受賞作家で画家のデイビッド・スモール。

 デイビッド・スモールは、アメリカ、ミシガン州デトロイト育ち。妻のサラ・スチュワートと共に製作した『リディアのガーデニング』(福本友美子訳/アスラン書房)が1998年のコールデコット賞オナーに選ばれ、その後、Judith St. George文の“So You Want to Be President?”(未訳)にて、2001年のコルデコット賞を受賞しています。
 
 日本語訳では、妻と共に製作した前述の絵本の他、『ベルのともだち』(福本友美子訳/アスラン書房)や『エリザベスは本の虫』(福本友美子訳/アスラン書房)を通して、あたたかく明るいタッチの絵として親しまれていますが、本人の文による絵本は、福音館書店の「おおきなポケット129号」(2002年12月号)に「ユーラちゃんとあたまぴょんぴょん」が訳されているのみです。本書は、デイビッド・スモール作“Imogen's Antlers"の待望の日本語訳。

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2008/02/07

川平朝清・著『わが家の子育て記 犬はだれだ、ぼくはこみだ』(岩崎書店)

 長男ジョン・カビラはDJ、次男謙慈はコンサルタント、三男英慈は俳優として、日本の芸能界、アメリカのビジネス界でそれぞれに活躍中。『わが家の子育て記録 犬はだれだ、ぼくはごみだ』は、三人の父親である朝清が、4部構成(第1部 沖縄へ 第2部 沖縄での日々 第3部 東京の暮らし 第4部 わが家の子育て)で語る子育て記である。

 沖縄出身、台湾生まれの父親、そして、アメリカ・カンザス州生まれの母親のもとに育った三兄弟の長男は10歳でアメリカに留学し、次男は都立高校からアメリカの大学へ入学し、三男はアメリカにサッカー留学している。三人自らの選択がユニークだ。

 「犬はだれだ、ぼくはごみだ」と副題になっている言葉は、三兄弟の間で週の初めに交わされる当番の役割分担ー犬の散歩、ゴミ捨て、買い物、3人はそれぞれに家族の中で役割を担っていた。
 返還前の沖縄での生活に始まり、東京、アメリカと三兄弟は成長してゆく。DJ、コンサルタント、俳優という個性豊かな三人はいかに育てられたのか。読み進む内に、浮き彫りにされるのは、両親が子育てにおいて大切にしたもの。

 父方、母方のルーツ、キリスト教という信仰、日本人としてのアイデンティティ、ハッギング(抱きしめること)、シンギング(子守唄やわらべ歌、唱歌)、「つかず離れず放任しておく」、「豊かな愛情をそそぐ」、「多くの楽しい思い出は心やさしい子を作る」「子どもは親の所有物ではない」「子どもに期待しているような生き方を、親自身が示す」、「我慢」の効用と「感謝」の気持ち、「夢中」になれるもの、「熱中」できるものに出会うことなど、現在の家庭から失われつつある信条が子育て中のたくさんのエピソードとともに語られている。

 沖縄の歴史や習慣、アメリカ・カンザス州の歴史にも興味をそそられ、「家族は助け合うもの、互助社会のはじまりだと思います。」と語る著者の家族観に深く共感を覚えた。

 子育ての中のエピソードが縦糸、そして、子育てにおいて両親が大切にしたものが横糸となる本書は、言語の違い、文化の違いを超えて、家族の絆を結ぶ一つの物語、親子のあり方、家族のあり方を問い直したい読者にお勧めの一冊である。

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2008/02/06

『西の魔女が死んだ』の映画化情報&植物アルバム

 こちらのサイトを訪れて下さる皆様が、 梨木香歩作品の植物アルバムをご覧になっていただいているようですので、大変うれしく思っています。今年、『西の魔女が死んだ』の映画が放映されるとのこと、どんな映画になるのでしょう。作品の中の植物が、どのように映像化されるのか・・・楽しみです。映画情報は、こちらをご覧ください。

 『西の魔女が死んだ』の植物アルバムは、こちらです。

主人公のまいが「ヒメワスレナグサ」と呼び、水を与えていた雑草の「キュウリ草」。針葉樹林の陽の当たらない洞に神秘的な花を咲かせる「銀龍草」、まいのおじいちゃんが大好きだった花です。おじいちゃんは、「鉱物の精」と呼んでいました。まいが「空中に蓮の花だ」と言う「朴の花」。登場人物と自然の植物との交歓が魅力的な作品です。

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追記:私が(新藤悦子・著/こみねゆら・絵)『空とぶじゅうたん』(日本ヴォーグ社)の復刊を願った理由

中近東のじゅうたんを巡る愛と幻想の物語

 『空とぶじゅうたん』は、トルコやイランに残る言い伝えをもとに、新藤悦子さんのたぐい希な創造力で織り上げられた愛と幻想の物語です。

「糸は翼になって」(ヤージュベディル絨毯ートルコ)
「消えたシャフメーラン」(クルド絨毯)
「沙漠をおよぐ魚」(ムード絨毯ーイラン)
「ざくろの恋」(トルクメン絨毯ーイラン)
「イスリムのながい旅」(イスファハン絨毯ーイラン)

 絨毯にまつわる5つの物語に、こみねゆら氏のすばらしいイラストが添えられています
津田塾大学で中近東ゼミを終えた著者新藤悦子氏は、トルコに渡って現地に留まり絨毯を織り続けました。その日々を初の書き下ろしとして「エツコとハリメ」に綴りました。その後も中近東各地の旅を続け、「チャドルの下から見たホメニイの国」、「羊飼いの口笛が聴こえる」「トルコ風の旅」「イスタンブールの目」など自ら撮った写真を添え水際だったルポやエッセイを書いています。
 

 「空とぶじゅうたん」は、実際にトルコに留まり絨毯を織り上げ、中近東各地を旅した作者だからこそ綴ることのできる渾身の物語です。言葉の一つ一つに作者の息遣いと中近東への愛が感じられる貴重な一冊だと思います。
中近東は今や、紛争の絶えない地域です。過酷な環境の中で絨毯を織り続けている女性たちに思いを馳せました。子供たちにも、大人の私たちにも、文化や芸術は人の痛みを通して、脈々と受け継がれていくものだということをさりげなく教えてくれるすばらしい物語絵本です。
 物語もさることながら丹精をこめて描かれたイラストも十分に大人の鑑賞に値する作品です。児童書に分類するよりも大人向けの物語絵本と言った方がふさわしいかもしれません。手元に置いて繰り返し手にとってながめたくなる絵本です。

 『空とぶじゅうたん』(日本ヴォーグ社)は、2006年10月に復刊ドットコムより復刊されました。

追記:私が『空とぶじゅうたん』の復刊を願った理由

 私が、この絵本に魅せられ、ぜひ、復刊をと願ったのは、絵本の美しさもさることながら、絨毯を紡ぐ中近東の女性たちの精神や魂を感じたからです。
 この絵本の話題からはそれるようですが、梨木香歩さんの『からくりからくさ』という小説に、次のようなくだりがあります。
 「日本の織物である紬も中近東のキリムも、女達のマグマのような思いをとんとんからりとなだめなだめ、静かな日常に紡いでゆく営み」
 登場人物の中の紀久さんというキリムを織っている女性の手紙の一節です。
 
 抑圧された環境の中で、マグマのように渦巻く思いを沈めるように、絨毯を織り続ける女性の精神が、『空とぶじゅうたん』の中に満ちています。絨毯を織る女性以外にも、物語の中には、砂漠を旅する女性も出て来ますが、やはり抑圧された環境の中で、ひたむきに前向きに生きようとする女性の何とも言えない極限の美が語られています。「ざくろの恋」というお話。

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(新藤悦子・著/小松良佳・絵)『青いチューリップ』(講談社)

16世紀のトルコを舞台とした深遠な冒険物語〜魂を満たし、歴史への関心や人間を超えるものへの洞察を促す良書

  クルディスタンの山の中腹に咲く青いチューリップは、クルディスタンに春を告げる花だ。「ラーレ、ラーレ、青いラーレ」と歌うのは、羊飼いの少年ネフィム、ラーレと呼ばれるのはチューリップ。原産地のトルコではラーレは赤い花だった。ネフィムは「青い」という言葉に力を込めて歌う。「大地が血で染まろうと、天空に咲くは青いラーレ」とどこからともなく、しゃがれた声が響いてきた。父親のカワとネフィム以外の誰も知らないはずの歌の続きだ。チューリップの群生の中に男が倒れていた。ネフィムは、あわててカワを呼びに行く。
 男の名は、バロ。オスマンの国の都イスタンブルからやってきた流れ者だ。時は16世紀、スルタン・スレイマン一世のオスマン・トルコの全盛の時代である。スルタンは、建築家のシナンに命じて、アヤソフィアを凌ぐモスクを建築することを計画している。クルディスタンの秘境で咲きほこる青いチューリップは、都では幻の花と言われている。スルタン・スレイマンがハレムの庭に欲しがっている花であることをバロは告げる。
 父親のカワとともに青いチューリップの球根を持って、聖地エユップに巡礼の旅に出たネフィムは、神学校の教授アーデムの屋敷に引き取られることになり、教授とともに青いチューリップの交配による品種改良を行うことになった。
 7年もの月日を費やして品種改良されたチューリップのアーモンド形の蕾から、青い花が開いた。宮廷の絵師頭シャー・クルーが「ペルシアの空の青だ」とうなる美しさ、目の覚めるような青、本物の青の中の青。妖しいほど美しい青であった。
 「ラーレ、ラーレ、青いラーレ」と歌いながら、病床から起きてきたアーデム教授の妻アイラは、ようやく咲いた3本の青いチューリップを引きちぎってしまった。一瞬のできごとだった。「青いラーレ」の歌は、アイラの母親であるライラの形見の歌だ。「こんな花、咲かせてはいけない。よからぬことが、かならず起こります。」とアイラは言う。
 アイラの言葉どおり、よからぬことが起こり始めた。

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(新藤悦子・著/西山晶・絵)『ギョレメ村でじゅうたんを織る』(福音館書店)

 著者の新藤悦子さんは、津田塾大学で中近東ゼミを終えて、トルコに単身で渡ります。初めて見たじゅうたんを織るトルコの女性たちの姿が心に焼き付いて、再び、トルコへと旅立ちます。
 トルコ語を学び、一人旅に備えて女性だとすぐにわからないように頭を坊主にします。トルコの生活にしっかり溶け込むために日本の物は辞書以外一切持っていかないことにしました。著者のトルコへの並々ならぬ思いが感じられます。
 現地で、ハリメさんという女性に草木染のじゅうたんを学びながら、トルコの生活に次第に溶け込んでゆきます。その過程は、以前大人向けのルポとして「エツコとハリメ」に詳しく綴られていますが、惜しくも今は絶版となってしまいました。
 たくさんのふしぎ傑作集として子供向けにトルコの生活やトルコの絨毯を紹介するためにわかりやすい言葉と著者が自ら撮った写真が大きく載せられているので、トルコの様子が視覚的にも鮮やかに描かれています。
 世界自然遺産でもあるカッパドキア地方のギョレメ村、火山灰を風雨がけずってできた自然の彫刻が著者のすばらしい写真と文章で紹介され、絨毯を織るまでの糸の用意から糸車をまわす様子、草木染に挑戦するまでの過程、絨毯が完成するまでの日々が子どもたちにもわかりやすい言葉で語られています。
 村人の食事、イスラム教徒の結婚式の様子、割礼の意味とその様子、畑仕事、イスラム暦による犠牲祭、秋のブドウ畑と冬支度、村の学校、夕日の丘とひみつの洞穴からみるカッパドキアの奇岩の美しさが紹介されています。冬のカッパドキア地方の雪景色は絶景です。
 最期のページに、スミレの花を掲げたハリメさんと桜に似たアーモンドの花を掲げたハリメさんの末娘のスナさんの写真が載せてあり、春を告げる花、スミレとアーモンドに著者のトルコへの愛着とまた会いましょうという気持ちが込められているようで、感動的なフィナーレでした。
 トルコを知りたい方、トルコ絨毯について知りたい方、遠いアジアへのあこがれを抱いている方にぜひお勧めの一冊です。

 以上、「ほのぼの文庫」管理人の<まざあぐうす>が、bk1に投稿して掲載された書評です。

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