『蟹塚縁起』(梨木香歩・文/木内達朗・絵)(理論社)
(梨木香歩・文・木内達朗・絵)『蟹塚縁起』(理論社)
梨木香歩さんの語りと木内達郎さんの絵の絶妙なコンビネーションによる蟹塚の由来ー二世代にわたる恨みが昇華されてゆく哀しく美しい物語です。
むかしむかし、薮内七右衛門という武将がいました。何千人もの兵を率いて戦っていた七右衛門は、家来たちをそれはそれは大事に思っていました。 七右衛門は、大事な家臣が人質にとられたと知った時、敵の罠とは知りながら、駆けつけたのです。
他の家来たちも次々に打たれ、兵たちの屍が累々としている中、続けざまに敵の矢を受け、愛馬松波丸もろとも、同田貫正国という九尺五寸の刀を握り締めたまま、どうっとばかりに地面に崩れ落ちました。七右衛門は、「ああこの土と、もっと親しんで、生きたかった…」との思いを遺しながら、息絶えてゆきました。無念の戦死でした。
七右衛門の思いは、同じ土地にとうきちという農民の子として生まれ変わりました。前世を語る旅人・六部…とうきちに前世の記憶が鮮明に甦る出来事が起こります。
沢蟹をいたぶる名主の息子を諭して、沢蟹を救った日、名主から農作業に欠かすことの出来ない牛を取り上げられました。両親が亡くなってひとりぼっちのとうきちにとって、牛は、たったひとつの財産でした。
牛のいない農作業を終え、へとへとに疲れて横になるとうきちの枕の下から聞こえるざわざわという音…外に出てみると、大勢の沢蟹が小川から家の床下を通って、青い月明かりの下を、 長い長い帯のようになって、どこまでも続いてゆくのでした。
…あなたがその恨みを手放さぬ限り…という旅人六部の声と同時に遠い遠い記憶がよぎります。遠い昔、月の山野をこういうふうに大勢で歩いたことを思い出しました。
同じ日の夕方、「押しかけ嫁でござります。」と横歩きをする女が、とうきちの家に現れ、掃除をしたり、夕餉の支度をしたりしています。とうきちは、「さてはおまえは蟹じゃろう」と言って、自分は大丈夫だから早く巣に帰るようにと声をかけます。すると、「私どもの気が済みませんので」と言って、あっというまに崩れ落ちて小さなたくさんの蟹となり散ってゆきました。鍋の蓋を開けると、ドジョウにタニシ、セリにゴボウが入っていました。
蟹らしいことよ…と思いながら、有難く鍋をいただいたとうきちは、はっと思うところがあって、名主の館へと急ぎます。さて、それからは、この絵本をお読みください。
梨木香歩さんの語りが七右衛門ととうきちの人柄の良さを、木内達郎さんの暗い色調の不思議な絵が、七右衛門とその家来たちの無念の思いを見事に語り描いています。二人の絶妙なコンビネーションによる蟹塚の由来、二世代にわたる恨みが、輝く星となって昇華されてゆく哀しく美しい物語です。
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コメント
こんにちは!
コメントありがとうございました。
「蟹塚縁起」は、娘が図書館から借りたときにチラリと中身を見たきりなので、内容は読んでいないのです。
独特の暗い絵がすごいインパクトで、読むならじっくり読みたいなぁと思いました。
記事を読むと、ますます興味がわきます。
「マジョモリ」もよさそうだなぁ。
投稿 くろにゃんこ | 2005/10/31 11:11
freeplanetさん、半年以上前に読んだ本ですが、独特の読後感がありました。freeplanetさんの感想を読んで、その時の感動を思い出しています。
トラックバックとコメントをありがとうございました。
投稿 まざあぐうす | 2005/10/27 19:48
TBさせていただきました。
私は最近読んだのですが、なんともいえない絵とお話の内容に、
読み終わったときふう、とため息をついてしまいました。
いい本ですよね。
投稿 freeplanet | 2005/10/27 18:11
戸隠かれんさん、こんにちわ。
梨木香歩さんの作品は、どれも奥が深いですよね。蟹塚縁起もそうですが、短いお話の中にも、前世からの恩讐の昇華、克服というテーマで書かれています。
半端ではないテーマ、モチーフが潜んでいますので、単なる楽しみで読むと、驚きますよね。
これから少しずつ記事をアップしてゆきますので、感想をまた寄せてくださいませ。
投稿 まざあぐうす | 2005/02/21 13:09
こんにちわ。
「からくりからくさ」。
私はすごく怖い本だな、という印象でした。
人間の業もさることながら、自分のルーツを知る、しかも一枚一枚剥がされるように明らかになるんですからね(笑)。
スケールは小さいけど、戸籍謄本をはじめて見るときのような、あの気持ちを思い出してしまいました(笑)。
投稿 戸隠かれん | 2005/02/21 08:46
あじさいさん、いらして下さってありがとうございます。
「裏庭」「からくりからくさ」・・・まだ、感想が言葉になりませんが、梨木香歩さんの本は、文学作品を読むような感じです。
少し難しいって感想、分かるような気がしています。
図書館で借りて読んで、やっぱり手元に置きたい、もう一度読みたいって思える作家さんです。
あじさいさんとジミーさん以外にも共感できてうれしいです。今、3月になるのが楽しみ(ジミーさんの絵が映画になるので)です。
映画を観たら、感想をお伝えしますね。
また、いらしてくださいませ。
投稿 まざあぐうす | 2005/02/18 22:58
梨木香歩さんでは「裏庭」が好きです。
独特の世界がありますね。
ファンタジーは普段読みませんが、これは面白かったです。
実は「からくり~」も読んだのですが、
こちらは設定や状況についていくのでいっぱいになってしまい、
少し難しかったなぁという印象がありますね。
投稿 あじさい | 2005/02/18 19:52
戸隠かれんさん、コメントをありがとうございます。
梨木香歩さんの作品とは思いがけない出会いでした。「家守綺譚」の表紙から・・・インクの匂いまで・・・と勧めて下さった方のお気持ちがよく分かるようです。
絵本の中では、『マジョモリ』もお勧めです。次に取り上げようかと思っています。梨木さんの作品は、はずれがないと思いますので、どれから読んでもす・て・きですよ。
また、ご感想などお聞かせ下さいね。
投稿 まざあぐうす | 2005/02/18 18:26
こんにちわ。
私も最近、梨木香歩デビュー(?)しました。
ある人から勧められたのがきっかけで、軽く読むつもりでしたが、梨木さんの美しい文章に魅了されてしまいました(笑)。
読んだのは「からくりからくさ」だったのですが、先の方が「家守綺譚」の独特の雰囲気や表紙の手触り、インクの匂いなどすべてを堪能して欲しいくらい味のある作品と、力いっぱい勧めてくれたので、次はこれにしようかと思っています。
投稿 戸隠かれん | 2005/02/18 16:19