2008/03/13

書評UP! 新藤悦子さんの新作『青いチューリップ 永遠に』(講談社)

 「ラーレ、ラーレ、青いラーレ 大地が血で染まろうと、天空に咲くは青いラーレ」と歌われるラーレとは、チューリップの花のこと。クルディスタンの山の中腹に咲く青いチューリップは、クルディスタンに春を告げる花だ。原産地のトルコではラーレは赤い花だった。
 羊飼いの少年ネフィは「青い」という言葉に力を込めて歌う。時は16世紀、スルタン・スレイマン一世のオスマン・トルコが全盛の時代、青いラーレは、都では、幻の花だった。

 羊飼いの少年ネフィがクルディスタンの山から持ってきた青いチューリップの球根から7年もの月日を費やして咲かせた幻の青いチューリップ。咲かせたのは神学校の教授で有名なチューリップ栽培家のアーデム教授だ。ネフィも教授のもとに留まり品種改良に協力している。

 宮廷の絵師頭シャー・クルーが「ペルシアの空の青だ」とうなる美しさ、目の覚めるような青、本物の青の中の青。妖しいほど美しい青であったが、「こんな花、咲かせてはいけない。よからぬことが、かならず起こります。」と言い、教授の妻アイラが一瞬のうちに引きちぎってしまった。アイラの言葉の通り、アーデム教授は都から追放され、アイラは亡き人となり、良からぬことが次々に起こり始め、ネフィと教授の娘ラーレの青いチューリップを巡る冒険物語が始まる。

 本書は『青いチューリップ』の続編として、前作から3年ぶりに刊行された。

 時が流れ、東の辺境の地から戻ったネフィとラーレは、ラーレの祖父であるシャー・クルーの家で生活することになった。ラーレは、女絵師になることを、ネフィムは、薬草帳を作ることを夢見ている。シャー・クルーのもとで絵師としての修業を積んでいるラーレが描いたペリ(ペルシャに伝わる善き妖精)の絵が、スルタンの妃フッレムの目に留まり、ラーレはハーレムに女絵師として招かれることに・・・。また、ネフィはアーデム教授から託された薬草らくだとげの秘密を解くために、弓作り部族を訪ねる旅に出ることに・・・。そして、再び、幻の青いチューリップの花が、人々をまどわせはじめる。

 前作の登場人物乞食のジェムは、都中の乞食集団のボスとなり、流れ者のバロは、あるときは通訳、あるときは講談師として旅を続ける。シャー・クルーの一番弟子のメフメットはモスクの壁の文様を極め、アーデム教授の屋敷の手伝いセマはシャー・クルーの屋敷の手伝いとして、再び物語に登場する。そして、続編で新たに登場する宮廷医師で、スペインから来たユダヤ教徒のモシェやハーレムの女奴隷ビュルビュル・・・一人一人が時代の制約や禁忌の中を精一杯生きている。

 前作同様、登場人物の一人一人が生き生きと描かれ、ハーレムの様子やスペインから来たユダヤ人の街バラッドの様子など、細やかな描写の中に、16世紀のトルコの生活が見事に甦っている。物語の中で、流れ者のバロが語る「青いラーレの物語」が面白く、作者の語りとの相乗効果でオスマン・トルコの時代にタイムスリップしたかのように物語を読み進むことができる。作者のイスラム世界に対する深い時代考証も見逃せないが、自らトルコのカッパドキア地方に留まり、現地の女性と絨毯を織ったり、中近東を旅し、中央アジアの遊牧民とともに生活をした作者ならではの語りではないだろうか。
 
 フッレム妃が青いチューリップに祈って引き起こそうとしている「よからぬこと」を止めることは出来るのか。
 らくだとげの秘密は解けるのか。
 年頃となったラーレにメフメットとの結婚話が上がっている。二人のその後とラーレを巡るネフィとメフメットとの恋の物語からも目が離せない。

 登場人物たちのその後は・・・・。
 青いチューリップのその後は・・・。
 読み終えた後、すぐにでも続編が読みたいと思った。前作『青いチューリップ』は、2005年度に第38回日本児童文学者協会新人賞受賞している。次なる「青いチューリップ」の物語のシリーズとしての続編を期待してやまない。

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2008/02/06

追記:私が(新藤悦子・著/こみねゆら・絵)『空とぶじゅうたん』(日本ヴォーグ社)の復刊を願った理由

中近東のじゅうたんを巡る愛と幻想の物語

 『空とぶじゅうたん』は、トルコやイランに残る言い伝えをもとに、新藤悦子さんのたぐい希な創造力で織り上げられた愛と幻想の物語です。

「糸は翼になって」(ヤージュベディル絨毯ートルコ)
「消えたシャフメーラン」(クルド絨毯)
「沙漠をおよぐ魚」(ムード絨毯ーイラン)
「ざくろの恋」(トルクメン絨毯ーイラン)
「イスリムのながい旅」(イスファハン絨毯ーイラン)

 絨毯にまつわる5つの物語に、こみねゆら氏のすばらしいイラストが添えられています
津田塾大学で中近東ゼミを終えた著者新藤悦子氏は、トルコに渡って現地に留まり絨毯を織り続けました。その日々を初の書き下ろしとして「エツコとハリメ」に綴りました。その後も中近東各地の旅を続け、「チャドルの下から見たホメニイの国」、「羊飼いの口笛が聴こえる」「トルコ風の旅」「イスタンブールの目」など自ら撮った写真を添え水際だったルポやエッセイを書いています。
 

 「空とぶじゅうたん」は、実際にトルコに留まり絨毯を織り上げ、中近東各地を旅した作者だからこそ綴ることのできる渾身の物語です。言葉の一つ一つに作者の息遣いと中近東への愛が感じられる貴重な一冊だと思います。
中近東は今や、紛争の絶えない地域です。過酷な環境の中で絨毯を織り続けている女性たちに思いを馳せました。子供たちにも、大人の私たちにも、文化や芸術は人の痛みを通して、脈々と受け継がれていくものだということをさりげなく教えてくれるすばらしい物語絵本です。
 物語もさることながら丹精をこめて描かれたイラストも十分に大人の鑑賞に値する作品です。児童書に分類するよりも大人向けの物語絵本と言った方がふさわしいかもしれません。手元に置いて繰り返し手にとってながめたくなる絵本です。

 『空とぶじゅうたん』(日本ヴォーグ社)は、2006年10月に復刊ドットコムより復刊されました。

追記:私が『空とぶじゅうたん』の復刊を願った理由

 私が、この絵本に魅せられ、ぜひ、復刊をと願ったのは、絵本の美しさもさることながら、絨毯を紡ぐ中近東の女性たちの精神や魂を感じたからです。
 この絵本の話題からはそれるようですが、梨木香歩さんの『からくりからくさ』という小説に、次のようなくだりがあります。
 「日本の織物である紬も中近東のキリムも、女達のマグマのような思いをとんとんからりとなだめなだめ、静かな日常に紡いでゆく営み」
 登場人物の中の紀久さんというキリムを織っている女性の手紙の一節です。
 
 抑圧された環境の中で、マグマのように渦巻く思いを沈めるように、絨毯を織り続ける女性の精神が、『空とぶじゅうたん』の中に満ちています。絨毯を織る女性以外にも、物語の中には、砂漠を旅する女性も出て来ますが、やはり抑圧された環境の中で、ひたむきに前向きに生きようとする女性の何とも言えない極限の美が語られています。「ざくろの恋」というお話。

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(新藤悦子・著/小松良佳・絵)『青いチューリップ』(講談社)

16世紀のトルコを舞台とした深遠な冒険物語〜魂を満たし、歴史への関心や人間を超えるものへの洞察を促す良書

  クルディスタンの山の中腹に咲く青いチューリップは、クルディスタンに春を告げる花だ。「ラーレ、ラーレ、青いラーレ」と歌うのは、羊飼いの少年ネフィム、ラーレと呼ばれるのはチューリップ。原産地のトルコではラーレは赤い花だった。ネフィムは「青い」という言葉に力を込めて歌う。「大地が血で染まろうと、天空に咲くは青いラーレ」とどこからともなく、しゃがれた声が響いてきた。父親のカワとネフィム以外の誰も知らないはずの歌の続きだ。チューリップの群生の中に男が倒れていた。ネフィムは、あわててカワを呼びに行く。
 男の名は、バロ。オスマンの国の都イスタンブルからやってきた流れ者だ。時は16世紀、スルタン・スレイマン一世のオスマン・トルコの全盛の時代である。スルタンは、建築家のシナンに命じて、アヤソフィアを凌ぐモスクを建築することを計画している。クルディスタンの秘境で咲きほこる青いチューリップは、都では幻の花と言われている。スルタン・スレイマンがハレムの庭に欲しがっている花であることをバロは告げる。
 父親のカワとともに青いチューリップの球根を持って、聖地エユップに巡礼の旅に出たネフィムは、神学校の教授アーデムの屋敷に引き取られることになり、教授とともに青いチューリップの交配による品種改良を行うことになった。
 7年もの月日を費やして品種改良されたチューリップのアーモンド形の蕾から、青い花が開いた。宮廷の絵師頭シャー・クルーが「ペルシアの空の青だ」とうなる美しさ、目の覚めるような青、本物の青の中の青。妖しいほど美しい青であった。
 「ラーレ、ラーレ、青いラーレ」と歌いながら、病床から起きてきたアーデム教授の妻アイラは、ようやく咲いた3本の青いチューリップを引きちぎってしまった。一瞬のできごとだった。「青いラーレ」の歌は、アイラの母親であるライラの形見の歌だ。「こんな花、咲かせてはいけない。よからぬことが、かならず起こります。」とアイラは言う。
 アイラの言葉どおり、よからぬことが起こり始めた。

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(新藤悦子・著/西山晶・絵)『ギョレメ村でじゅうたんを織る』(福音館書店)

 著者の新藤悦子さんは、津田塾大学で中近東ゼミを終えて、トルコに単身で渡ります。初めて見たじゅうたんを織るトルコの女性たちの姿が心に焼き付いて、再び、トルコへと旅立ちます。
 トルコ語を学び、一人旅に備えて女性だとすぐにわからないように頭を坊主にします。トルコの生活にしっかり溶け込むために日本の物は辞書以外一切持っていかないことにしました。著者のトルコへの並々ならぬ思いが感じられます。
 現地で、ハリメさんという女性に草木染のじゅうたんを学びながら、トルコの生活に次第に溶け込んでゆきます。その過程は、以前大人向けのルポとして「エツコとハリメ」に詳しく綴られていますが、惜しくも今は絶版となってしまいました。
 たくさんのふしぎ傑作集として子供向けにトルコの生活やトルコの絨毯を紹介するためにわかりやすい言葉と著者が自ら撮った写真が大きく載せられているので、トルコの様子が視覚的にも鮮やかに描かれています。
 世界自然遺産でもあるカッパドキア地方のギョレメ村、火山灰を風雨がけずってできた自然の彫刻が著者のすばらしい写真と文章で紹介され、絨毯を織るまでの糸の用意から糸車をまわす様子、草木染に挑戦するまでの過程、絨毯が完成するまでの日々が子どもたちにもわかりやすい言葉で語られています。
 村人の食事、イスラム教徒の結婚式の様子、割礼の意味とその様子、畑仕事、イスラム暦による犠牲祭、秋のブドウ畑と冬支度、村の学校、夕日の丘とひみつの洞穴からみるカッパドキアの奇岩の美しさが紹介されています。冬のカッパドキア地方の雪景色は絶景です。
 最期のページに、スミレの花を掲げたハリメさんと桜に似たアーモンドの花を掲げたハリメさんの末娘のスナさんの写真が載せてあり、春を告げる花、スミレとアーモンドに著者のトルコへの愛着とまた会いましょうという気持ちが込められているようで、感動的なフィナーレでした。
 トルコを知りたい方、トルコ絨毯について知りたい方、遠いアジアへのあこがれを抱いている方にぜひお勧めの一冊です。

 以上、「ほのぼの文庫」管理人の<まざあぐうす>が、bk1に投稿して掲載された書評です。

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2006/12/02

こみねゆら絵本原画展@えほんミュージアム清里

Cimg1196 11月30日(金)~12月1日(土)まで一泊で清里に行きました。えほんミュージアム清里で開催中のこみねゆら絵本原画展にて、10月に待望の復刊をとげた『空とぶじゅうたん』(ブッキング)の原画が展示されています。2年越しの願いが叶って復刊された絵本の原画・・・一枚一枚を間近に見ることができました。

Cimg1198  思っていたより小さな絵ですが、一枚一枚のじゅうたんが本当に細かいところまで描かれています。まさに渾身の作品! こんなに緻密な筆のタッチは、絨毯を織る作業と同じだけの精神力を要したのではないかと感じました。本当にすばらしい原画で、感無量でした。

 

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