2008/02/06

追記:私が(新藤悦子・著/こみねゆら・絵)『空とぶじゅうたん』(日本ヴォーグ社)の復刊を願った理由

中近東のじゅうたんを巡る愛と幻想の物語

 『空とぶじゅうたん』は、トルコやイランに残る言い伝えをもとに、新藤悦子さんのたぐい希な創造力で織り上げられた愛と幻想の物語です。

「糸は翼になって」(ヤージュベディル絨毯ートルコ)
「消えたシャフメーラン」(クルド絨毯)
「沙漠をおよぐ魚」(ムード絨毯ーイラン)
「ざくろの恋」(トルクメン絨毯ーイラン)
「イスリムのながい旅」(イスファハン絨毯ーイラン)

 絨毯にまつわる5つの物語に、こみねゆら氏のすばらしいイラストが添えられています
津田塾大学で中近東ゼミを終えた著者新藤悦子氏は、トルコに渡って現地に留まり絨毯を織り続けました。その日々を初の書き下ろしとして「エツコとハリメ」に綴りました。その後も中近東各地の旅を続け、「チャドルの下から見たホメニイの国」、「羊飼いの口笛が聴こえる」「トルコ風の旅」「イスタンブールの目」など自ら撮った写真を添え水際だったルポやエッセイを書いています。
 

 「空とぶじゅうたん」は、実際にトルコに留まり絨毯を織り上げ、中近東各地を旅した作者だからこそ綴ることのできる渾身の物語です。言葉の一つ一つに作者の息遣いと中近東への愛が感じられる貴重な一冊だと思います。
中近東は今や、紛争の絶えない地域です。過酷な環境の中で絨毯を織り続けている女性たちに思いを馳せました。子供たちにも、大人の私たちにも、文化や芸術は人の痛みを通して、脈々と受け継がれていくものだということをさりげなく教えてくれるすばらしい物語絵本です。
 物語もさることながら丹精をこめて描かれたイラストも十分に大人の鑑賞に値する作品です。児童書に分類するよりも大人向けの物語絵本と言った方がふさわしいかもしれません。手元に置いて繰り返し手にとってながめたくなる絵本です。

 『空とぶじゅうたん』(日本ヴォーグ社)は、2006年10月に復刊ドットコムより復刊されました。

追記:私が『空とぶじゅうたん』の復刊を願った理由

 私が、この絵本に魅せられ、ぜひ、復刊をと願ったのは、絵本の美しさもさることながら、絨毯を紡ぐ中近東の女性たちの精神や魂を感じたからです。
 この絵本の話題からはそれるようですが、梨木香歩さんの『からくりからくさ』という小説に、次のようなくだりがあります。
 「日本の織物である紬も中近東のキリムも、女達のマグマのような思いをとんとんからりとなだめなだめ、静かな日常に紡いでゆく営み」
 登場人物の中の紀久さんというキリムを織っている女性の手紙の一節です。
 
 抑圧された環境の中で、マグマのように渦巻く思いを沈めるように、絨毯を織り続ける女性の精神が、『空とぶじゅうたん』の中に満ちています。絨毯を織る女性以外にも、物語の中には、砂漠を旅する女性も出て来ますが、やはり抑圧された環境の中で、ひたむきに前向きに生きようとする女性の何とも言えない極限の美が語られています。「ざくろの恋」というお話。

続きを読む "追記:私が(新藤悦子・著/こみねゆら・絵)『空とぶじゅうたん』(日本ヴォーグ社)の復刊を願った理由"

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2008/01/02

(安房直子・著/こみねゆら・絵)『初雪のふる日』(偕成社)

 皆さんは幼い頃、迷子になったことがありますか?
 私は4歳の頃、遠くの町の警察署で保護されたことがあります。でも、どうやって、そんな遠くの町まで行くことができたのか、その記憶がないのです。

 もしかしたら、こんな風に出かけていったのかしら?

 秋のおわりの寒い日に、小さな女の子が、村の一本道にろうせきでかかれた石けりの輪を見つけました。どこまでも続いています。思わず飛び込んでみたくなるような石けりの輪だったのです。女の子が「なあんて長い石けり!」と叫んで、ろうせきの輪に飛び込んでいきました。片足、片足、両足、両足…と女の子が石けりの輪をはずみながら、不思議な物語が始まります。

 夢中になってはずんでいる内に、ふと気がつくと、女の子は前とうしろをたくさんの白うさぎたちにはさまれていました。帰ろうかなと思っても、もう、飛んでいる足をとめることができません。
 うさぎたちにはさまれて、ゴムまりみたいにはずみながら、女の子は、おばあさんから聞かされた初雪のふる日のお話を思い出しました。うさぎの群れが一列になって、山から山へ村から村へと雪を降らせてゆく。そして、そのうさぎの群れにまきこまれたら、うさぎと一緒に世界の果てまで飛んでいって、小さな雪のかたまりになってしまうのだと。

 うさぎの群れから抜けられなくなった女の子は、これまで一度も来たことがないようなところまでやってきました。初雪の降る異世界へと紛れ込んでしまったのです。女の子は本当に世界の果てまで飛んでゆくのでしょうか。

 初雪の降る静かな世界に、白うさぎたちのかわいらしさと怖ろしさ、そして、女の子の心細さが満ちています。そして、最後のページに描かれた一台のバスにほっとします。

 こんな風に迷子になってみたい。
 そんな思いを抱かせてくれる不思議な、そして、すてきな絵本、安房直子さんの巧みな語りとこみねゆらさんの繊細で美しい挿絵のコラボレーション、この冬一番のお薦めの絵本です。
 

以上、「ほのぼの文庫」管理人の<まざあぐうす>が、bk1に投稿して掲載された書評です。

 

| | コメント (7)

2006/12/02

こみねゆら絵本原画展@えほんミュージアム清里

Cimg1196 11月30日(金)~12月1日(土)まで一泊で清里に行きました。えほんミュージアム清里で開催中のこみねゆら絵本原画展にて、10月に待望の復刊をとげた『空とぶじゅうたん』(ブッキング)の原画が展示されています。2年越しの願いが叶って復刊された絵本の原画・・・一枚一枚を間近に見ることができました。

Cimg1198  思っていたより小さな絵ですが、一枚一枚のじゅうたんが本当に細かいところまで描かれています。まさに渾身の作品! こんなに緻密な筆のタッチは、絨毯を織る作業と同じだけの精神力を要したのではないかと感じました。本当にすばらしい原画で、感無量でした。

 

続きを読む "こみねゆら絵本原画展@えほんミュージアム清里"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/08/01

(江國香織・文/こみねゆら・絵)『すきまのおともだちたち』(白泉社)

 主人公である「新聞記者」の私が若く、溌剌としていた時に、突然すきまに落ちて出会った9歳のおんなのこ。おんなのこは、ギンモクセイの茂みとレモンの生えた庭のある家に、古いお皿と一緒に住んでいます。両親はいません。

 すきまに落ちて帰れなくなった私に「旅人っていうものはね、旅が終わればいやでも帰らなきゃならないの。そんなの、生まれたばかりのへびの赤ちゃんにだってわかることよ」「それなのにあなたときたら、うろたえたりしてみっともないわ」というおんなのこ。

続きを読む "(江國香織・文/こみねゆら・絵)『すきまのおともだちたち』(白泉社)"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/01/04

『さくら子のたんじょうび』(童心社)

 「わたしの名前ね、どうしてさくら子になったの?」小学校2年生のさくら子は自分の名前の由来をかあさんにたずねました。「山のさくらの木からもらった、さくら子よ」とかあさんは教えてくれました。そして、夏休みに、そのさくらの木に会いにゆくことになりました。

 8月の末に、電車に乗ってかあさんと二人で出かけました。山間の小さな駅に降りると、改札口に駅前タクシーの運転手のおじいさん・山口さんが待っていました。かあさんが、さくらの木に何度も会いにきて、その度にお世話になった運転手さんです。
 さくらの木は道路から十メートルほど入った所に立っていました。
 でも、それはさくらの木ではありません。栗の実が生っています。かあさんに促されて見上げると、栗の木の上に大きく伸びているのは、確かにさくらの木でした。どこにも継ぎ目がありません。不思議な木です。木の前に「みごも栗」と書いた札がたっていました。

 山口さんがタクシーの運転手の仕事を始めたばかりの頃、大きな台風が来て、まだ若かった栗の木が倒れてしまいました。2年後、その栗の木の頭のうろに小鳥が糞をしたのか、さくらが芽吹き、そのまま大きくなって、今のような姿になったのだそうです。
 「くりの木がみごもってね、さくらという赤ちゃんを生んで、こんなに大きく育てたのよ」とかあさんが言いました。赤ちゃんがほしい人が、栗の木にあやかりたいと、「みごも栗」に会いにくるようになったそうです。かあさんもその一人だったと言います。 

 さくら子は「みごも栗」を見て、自分の名前の由来を知りました。それから、数年後、さくら子が6年生になった春、再び、さくらの木をかあさんと二人で訪れます。そこで、明かされるさくら子の出生…。
 
 宮川ひろさんの日本的な語りとこみねゆらさんの洋風な絵の一見ミスマッチなコンビネーションが、不思議に美しい絵本。親の愛とは…。子どもの生命力とは…。台風に倒れた栗の木とそのうろから芽吹き育ったさくらの木が、静かに教えてくれます。
 「わたしも、大きくなって、あんなにやさしい花をさかせたいな…」と思うさくら子の清らかな心とさくら子を育てた両親の暖かさが心に残る絵本です。

こみねゆらさんのHPは、こちら・「ゆららおもちゃ箱」です。

| | コメント (0)

2004/12/06

あさのあつこ著・こみねゆら絵『えりなの青い空』(毎日新聞社)

keyaki-mayumi.jpg
(まざあぐうす撮影)

ページをめくるたびに心に爽やかな風が吹きます

 小学校5年生のえりなは、空が大好き。
 空ってすごいな。すごくて、おもしろいなと思う。
 マイペースでのんびり屋のえりな
 晴れた日には、新聞紙を持って学校にゆく

 新聞紙の上に寝転がると気持ちがいい
 カサコソ、カサコソと新聞紙のおしゃべりが聴こえる
 中庭に寝転がっていることをお母さんにとがめられた
 中庭に寝転がっていることが学級会の話題になった

 えりなは、校舎の裏の木の下に寝転がることにした
 学級委員で、美人で、優等生の鈴原さん
 何でも普通で、目立たないえりな
 ふたりが木の下で寝転がった

 新聞紙と青空
 えりなと鈴原さん
 あさのあつこさんの文章とこみねゆらさんの絵
 ページをめくるたびに、心に爽やかな風が吹く
              (まざあぐうす)

| | コメント (0)